研究課題/領域番号 |
22590409
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
森井 宏幸 産業医科大学, 医学部, 准教授 (60141743)
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研究分担者 |
小川 みどり 産業医科大学, 医学部, 講師 (40320345)
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キーワード | イノシトール / リン脂質 / 結核 / 脂質生合成 |
研究概要 |
抗酸菌のホスファチジルイノシトール(PI)の生合成経路を詳しく調べ直し、それが、ヒトとは異なる新しい経路であることを発見した。PIは、真核生物には広く分布しているが、真正細菌の中では、放線菌など抗酸菌類縁の限られた細菌のみに分布している。従って、抗酸菌のPI生合成に関わる特有な酵素の阻害剤の探索は、ヒトやヒトに必要な常在細菌には影響の少ない、結核菌及びその類縁病原性菌を特異的に阻害できる薬剤の開発につながると考えられる。抗酸菌PIの新規合成経路から、基質であるイノシトール1リン酸の構造類似体が阻害剤になると予想して4種類の化合物を合成した。そして、合成品のすべてがボスファチジルイノシトールリン酸(PIP)合成酵素活性を阻害することを確認した。また、そのうちの2種については抗酸菌の生育阻害効果も確認した。興味深い結果として、酵素反応により阻害剤の1つが反応して新規生成物ができた。この生成物もPIP合成酵素活性を阻害した。 また、抗酸菌で我々が見出したPIの新規合成経路が、PIを含む真正細菌に共通する普遍的な経路かどうかを明らかにすることは、阻害剤の応用範囲を知る上で重要である。そこで、Nocardiaに近縁のRhodococcus equiについてPIP合成酵素の遺伝子と思われる配列をゲノムから設計し、メーカー(GenScript)に合成を依頼した。この人工遺伝子を大腸菌に導入してタンパクを発現し、PIP合成酵素の高い活性を確認した。このRhodococcus equiは、日和見病原体として免疫不全患者に肺疾患を起こす。この結果より、病原体など培養困難な微生物のPIP合成酵素の分布を調べるのに人工遺伝子が有用である事もわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PIP合成酵素活性測定法が抗菌剤のスクリーニングとして使える事を立証できた。 実際に酵素活性阻害剤と抗酸菌の生育阻害剤を見つけた。これらは阻害剤のリード化合物になると考えられる。 病原体など培養困難な微生物のPIP合成酵素の分布を調べるのに人工遺伝子を利用する手法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)阻害剤候補化合物(基質のイノシトールリン酸及び生成物PIPの構造類似体)を合成し、PIP合成酵素活性への影響を調べる。酵素活性阻害剤については、抗酸菌への生育阻害効果も調べる。 (2)真核生物のPI合成経路とは異なるPIP(AIP)を介する新規合成経路が、古細菌とPIを有する真正細菌に共通する普遍的な経路なのかどうかを明らかにする。 イノシトールリン脂質は、多くの古細菌と限られたいくつかの真正細菌(Mycobacterium、Corynebacterium、Nocardia、Mycromonospora、Streptomyces、Propionibacterium)に含まれている。このうちゲノムまたはPIP合成酵素遺伝子配列の分っているいくつかの菌株のPIP合成酵素の遺伝子をメーカーに合成してもらい、それらを大腸菌で発現し、イノシトールリン脂質生合成の酵素活性を[^3H]イノシトールと[^<14>C]イノシトール1リン酸を用いて測定し、その合成経路が真正細菌小古細菌型か真核生物型かを調べる。PIP合成酵素を発現させた大腸菌ホモジネートを用いる事により、PI-イノシトール交換反応により[^3E]イノシトールがPIに取り込まれる経路を排除できる。
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