研究課題
当初の研究実施計画平成22年度、我々は、エンドソーム蛋白質分解酵素であるカテプシンの阻害因子cystatin-Cが、CD4非依存性HIV感染を促進することは発見した。この結果は、CD4非依存性HIV感染がエンドソームを経由することを示唆している。平成23年度は、この仮説を実証することを目的として実験を行った。エンドサイトーシスの阻害剤であるダイナソーおよびエンドサイトーシスに重要な細胞因子であるdynaminとEps15のドミナント・ネガティブ変異体のCD4非依存性HIV感染に及ぼす影響を観察した。一方、多くのエンベロープを持つウイルスの感染はエンドソームを経由し、さらにエンドソームの酸性化を必要とする。CD4非依存性HIV感染もエンドソーム酸性化を必要とするかどうか知るため、エンドソーム酸性化阻害剤であるクロロキンとバフィロマイシンの影響を観察した。本年度の成果予期したようにエンドサイトーシス阻害剤ダイナソーは、CD4非依存性HIV感染を抑制したが、CD4依存性HIV感染には影響しなかった。Dymaninのドミナント・ネガティブ変異体はCD4非依存性HIV感染に影響しなかったが、Eps15ドミナント・ネガティブ変異体は抑制した。エンドソーム酸性化阻害剤クロロキンとバフィロマイシンは、CD4非依存性HIV感染を抑制したが、CD4依存性HIV感染には影響しなかった。これらの結果は、CD4非依存性HIVが、Eps15要求性のエンドサイトーシスを経由して細胞内に侵入し、エンドソーム酸性化を必要とすることを示している。一方、CD4依存性HIV感染は、エンドサイトーシスを必要としない。本成果の意義・重要性エンベロープを持つウイルスの細胞内侵入経路には、エンドソームを経由する場合と、細胞表面から直接細胞内に感染する場合が知られている。一方、HIVの細胞内侵入経路は、相反する報告が多数有り、未だはっきりとしていない。我々の成果は、CD4非依存性HIV感染がエンドソームを経由し、CD4依存性HIV感染はエンドソームを経由しないことを示している。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績の概要」において記載したように、当初の目的通り研究計画が進行した。HIVに加え、エンドソームを経由して細胞内に侵入するウイルスとして、我々は、マウス白血病ウイルス(MLV)とエボラウイルスの感染におけるエンドソーム蛋白質分解酵素であるカテプシンの働きを解析した。カテプシンはエンドソーム酸性化によって活性化される。前述したようにMLV感染はエンドソームを経由しエンドソーム酸性化を必要とするが、XC細胞においてはエンドソーム酸性化阻害剤がMLV感染に影響せず、MLVはXC細胞特異的に細胞表面において細胞内に侵入すると古くから考えられていた。我々は、XC細胞におけるMLVおよびエボラウイルス感染が、エンドソーム酸性化を必要としないが、カテプシンを必要とし、XC細胞におけるカテプシン活性化はエンドソーム酸性化非依存性であることを発見した。これらの結果は、XC細胞におけるMLVおよびエボラウイルス感染もエンドソームを経由するが、エンドソーム酸性化と関係なくカテプシンが活性化されるため、これらの感染はエンドソーム酸性化阻害剤の影響を受けないことを示唆している。実際、XC細胞におけるMLVおよびエボラウイルス感染は、エンドサイトーシス阻害剤によって抑制された(PLoS One)。当初の研究計画に加え、上記の成果が得られたので、計画に以上に進展したと言える。
当初の研究計画通り、CD4非依存性HIV感染が、エンドソームを経由していることを、蛍光顕微鏡を用いて観察する。それに加え、cystatin-CのMLVおよびエボラウイルス感染に及ぼす影響を観察する。感染価を測定するためのウィルスベクターは、プラスミドDNAを細胞にトランスフェクションすることによって作成するので、細胞培養、トランスフェクション、プラスミドDNA精製に必要な試薬を購入する。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
PLoS ONE
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