研究課題/領域番号 |
22590422
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
葛原 隆 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (00260513)
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キーワード | インフルエンザ / RNAポリメラーゼ / エンドヌクレアーゼ / マルカンチン / 天然物化合物 / 阻害剤 / 苔 / ビスビベンジル |
研究概要 |
ブタ由来A型インフルエンザが大流行するなど、人類にとってインフルエンザウイルスは大きな脅威となっている。現在、インフルエンザ治療にノイラミニダーゼ阻害薬やM2タンパク質阻害薬が主流であるが、これらの分子には変異が生じやすく、耐性ウイルスを生んでしまうという欠点がある。一方、ウイルス膜内部に存在するRNA依存性RNAポリメラーゼは変異が起こりにくく、抗インフルエンザ薬の作用点として最適である。A型インフルエンザウイルスが有するRNAポリメラーゼは、3種類のサブユニット(PA,PB1,PB2)から成る。そのうち、PAサブユニットはエンドヌクレアーゼ活性を持ち、宿主細胞のmRNAのキャップ構造を含むオリゴヌクレオチドを切り取り、それをプライマーとしてウイルスゲノムの転写を行う。これらのPAエンドヌクレアーゼ活性はインフルエンザの遺伝子の転写に重要であり、エンドヌクレアーゼ活性阻害剤がインフルエンザウイルスに対する新薬となる可能性がある。そこで、我々はPAサブユニットにおけるエンドヌクレアーゼ活性を阻害する化合物として、コケ植物ゼニゴケMarchantia polymorphaに含まれるマルカンチンに注目した。マルカンチンは大環状ビスビベンジル構造を有しており、これまでにも抗菌活性や5-リポキシゲナーゼ阻害作用などの様々な生理活性を示す事が知られている。本研究では、10種類のマルカンチン型化合物について抗ウイルス作用を検討した。このうち、カテコール骨格を有する5種類の化合物がPAエンドヌクレアーゼ活性を阻害した。次に、これらをウイルスに作用させたところ、A型インフルエンザウイルス(H1N1,H3N2)ではMarchantinEが、B型インフルエンザウイルスではMarchantin A、E、Perrottetin Fがウイルスの増殖を抑制した。以上より、これらの分子が共通して持つエチルカテコール基がエンドヌクレアーゼ活性の抑制に重要であることが示唆された。PAサブユニットをターゲットとするマルカンチン型化合物は、新しい抗インフルエンザ薬のシードとして期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成有機化合物であるサリドマイドアナログや苔由来の天然物化合物であるマルカンチンがインフルエンザRNAポリメラーゼのエンドヌクレアーゼを阻害し、抗インフルエンザウイルス活性を見いだした。さらに全く別物として認識されていた両者の間に共通の官能基を見いだし、抗インフルエンザウイルス活性にとって重要な化学的な官能基を提唱することができた。よって、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
インフルエンザのRNAポリメラーゼが内包するエンドヌクレアーゼを阻害する化合物をさらに探索する。具体的にはこれまでスクリーニングしてきた化合物とは全く異なる、サッカーボール状の球体分子であるC60フラーレンアナログ化合物群についてスクリーニングする予定である。C60フラーレンは炭素からなる球体分子で、その発見にはノーベル賞が付与されている。ヒトエイズウイルスであるHIVに対し、フラーレンが抗HIV活性を有することや化粧品として有効であることなどが報告されている。そのようなフラーレンが抗インフルエンザウイルス活性を有するという報告は全くなく、もし活性が示されれば、全く新しいタイプの抗インフルエンザ薬となりうる。
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