研究概要 |
高病原性の鳥インフルエンザや数年前にブタ由来A型インフルエンザが流行するなど,人類にとってインフルエンザウイルスは大きな脅威となっている。現在、インフルエンザ治療にはノイラミニダーゼ阻害薬が主流であるが、変異が生じやすく,耐性ウイルスを生んでしまうという欠点がある。一方、RNA依存性RNAポリメラーゼは変異が起こりにくい。このRNAポリメラーゼは、3種類のサブユニット(PA, PB1, PB2)から成る。そのうち,PAサブユニットはN末にエンドヌクレアーゼ活性を持ち、宿主細胞のmRNAのキャップ構造を含むオリゴヌクレオチドを切り取り、それをプライマーとしてウイルスゲノムからの転写を行う。この活性はインフルエンザの遺伝子の転写に必須であるため,エンドヌクレアーゼ活性の阻害剤が新規メカニズムの抗インフルエンザ薬となる可能性がある。そこで PAエンドヌクレアーゼ活性を阻害する化合物をスクリーニングすることにした。本年度はサッカーボール状の分子構造を有するフラーレンアナログに注目した。炭素原子60個で構成されるサッカーボール状の構造を持ったC60フラーレンは炭素原子60個からなるサッカーボール状構造を形成している。本研究では,12種類のフラーレンアナログ化合物について、インフルエンザRNAポリメラーゼのPAサブユニットのエンドヌクレアーゼアッセイ系を用いて阻害する化合物を探索した。その結果、8種類のフラーレンアナログについて、PAエンドヌクレアーゼを阻害した。このアッセイ系においては、フラーレンにカルボキシル基が結合したような構造が、阻害にとって重要であると思われる結果であった。フラーレンの球体はインフルエンザ・PAエンドヌクレアーゼの活性部位のポケットに入り込むかどうかを結合シミュレーションで検討した。その結果、ちょうどポケットにフラーレンの球体が入り込むことができると分かった。
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