研究課題
これまでに申請者らは、野外ブタ血清から強毒性の日本脳炎ウイルスを分離し、さらにこの株の強毒性が非構造蛋白質NS4A上の1アミノ酸の違い(3番目のアミノ酸がValだと弱毒性であるが、Ileだと強毒性になる)に起因することをリバースジェネティクス法により突き止めた(Yamaguchi et al.2011)。これはフラビウイルスの病原性発現にNS4Aが関与することを示す最初の知見である。しかしその作用機序は全くわからない。平成23年度は以下の研究を行った。1)これまでの病原性解析はウイルスを腹腔接種して評価していたが(神経侵入毒性)、今回は各ウィルスを頭蓋内接種して神経毒性を調べた。すると神経侵入毒性試験で観察された結果と異なり、NS4A上の1アミノ酸置換の有無で致死性に差異は認められなかった。これよりこのNS4A上の1アミノ酸の違いは、ウィルスが頭蓋内に侵入する以前のウイルス動態に影響を及ぼしている可能性が示唆された。2)近年分離される日本脳炎ウイルスはウイルスゲノム中の3'末端に欠失がしばしば観察されるが、その理由およびウイルス性状7に及ぼす影響については不明である。そこでこの部位に様々な欠失および付加変異を導入した組換えウイルスをリバースジェネティクス法により作製し、in vitroでのウイルス増殖能およびマウスに対する病原性(神経侵入毒性)を調べた。しかしながら野生型および変異体間で明らかな差異は認められず、この部位欠失がウイルス性状に大きく影響を与える可能性は否定された。
2: おおむね順調に進展している
研究予定とは若干異なる方向性に進んではいるが、解析自体は進んでおり、また成果も発表できている。
我々の見出したNS4A上の病原性規定部位はin vitroでのウイルス増殖性に影響しないが、宿主細胞側の遺伝子発現プロファィルに影響を及ぼす可能性がある。そこで平成24年度は、強毒株・弱毒株間での宿主遺伝子発現動態の解析を進めることにより、NS4Aが宿主細胞側に及ぼす作用およびその機序の解明を目指す。一方この強毒型NS4Aを有する日本脳炎ウイルスは、主要型である遺伝子型I型では我々の保有する株のみが国内で登録されている。そこでこの強毒型がどの程度蔓延しているのか、分子疫学的解析も進めてゆく予定である。
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Virus Genes
巻: 44 ページ: 191-197
Journal of General Virology
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