これまでに我々は、遺伝子型I型日本脳炎ウイルス(JEV)の非構造蛋白質NS4AのN末端側から3番目のアミノ酸をバリン(Val)からイソロイシン(Ile)へ置換することにより、マウスに対する病原性が増強することを報告した(Yamaguchi et al. 2011)。しかし本部位がIle(3-Ile型)であるI型JEV株は、我々が配列決定した中ではこれまでMie/40/2004株が唯一であり、データベース上でも国内分離株としては登録がなかった。この理由として、NS4A領域の配列データが蓄積されていないことが考えられた。本年度は国内および国外での3-Ile型株の蔓延状況を把握し、かつMie/40/2004株以外の3-Ile株の性状解析を進めることにより国内に存在するJEVを監視することを目的とし、研究を進めた。1994年から2010年に国内で分離されたI型JEV分離株のNS4A領域の塩基配列を決定したところ、約20%が3-Ile型であった。これらの株は2004年から2008年の間に本州で分離されたものであった。系統樹解析によりその多くが非常に近縁であることがわかった。3-Ile型株より5株を選択し全塩基配列を決定したところ、うち4株はMie/40/2004株とアミノ酸配列に相違がみられた。哺乳動物由来株化細胞を用いたin vitroでの増殖能は、Mie/40/2004株を含む3-Ile型5株で顕著な差異は観察されなかった。一方、蚊由来培養細胞では株間で大きいもので7倍程度の差異が観察された。マウスへの接種実験ではMie/40/2004株に比べ明らかに病原性の低い株が1株見いだされた。これより、3-IleはJEVを強毒化する絶対的な要因ではないことが明らかとなった。
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