研究概要 |
モルモットサイトメガロウイルス (GPCMV)は、先天性CMV感染を小動物で唯一起こす。我々は、線維芽細胞での増殖に不要だが個体での増殖に必須な1.6kbのGPCMVゲノム領域を同定し、この領域が、細胞指向性に関与するヒトCMV UL128及びUL130蛋白に相同性を有する蛋白をコードすることを明らかにしてきた。本研究では、これらのGPCMVホモローグの解析を通して、1)細胞指向性決定の詳細な分子機序 2)個体での感染及び病態における役割 3)サブユニットワクチンの抗原候補としての可能性、を明らかにする。 本年度の主な研究成果は以下の通りである。1)約9kbの欠失を有するが、線維芽細胞で正常に増殖するGPCMVのゲノムを有し、GFPを発現可能なBACの構築に成功した。2)このBACを用いて、UL128, UL130及びIL131Aホモローグに変異を導入したGPCMVをそれぞれ作製し、これらのGPCMVホモローグがマクロファージへの感染に必須である一方、ヒトCMVと異なり、上皮細胞指向性には重要でないことを明らかにした。3)マクロファージにおけるGPCMVの増殖は限定的であるが、線維芽細胞と感染マクロファージを共培養すると線維芽細胞でウイルス増殖が起ることを明らかにした。また、4)塩化アンモニウム処理などエンドサイトシス後の細胞内での酸性化に対して阻害処理を行っても、感染の阻害は生じなかった。マクロファージは、個体内での感染伝播に重要な役割を担っていることから、その細胞指向性は個体での効率的な感染の成立に密接に関連していると考えられる。なお、マウスCMVでは、UL128, UL130に相当する遺伝子は、サイトカインをコードしマクロファージの分化・遊走に関与する形で個体での感染効率に寄与しており、モルモットCMVは、マウスCMVからヒトCMVへの進化過程の中間段階とも考えられた。
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