研究概要 |
炎症・免疫反応時に生体に不可避に起こる事象は炎症局所への白血球の浸潤であり、白血球浸潤なくして炎症・免疫反応は成立しない。すなわち、白血球浸潤を制御する方法を提供できれば、細胞機能を標的にした従来の薬剤とは全く異なる方法で、自己免疫・アレルギーなど多くの難治性炎症性疾患の治療が可能になる。本研究は、セレクチンとそのリガンドおよびケモカインとその受容体に焦点を絞り、好中球、エフェクター/メモリーT細胞、制御性T細胞の炎症局所浸潤の分子機構やその時空的制御を解明し、各白血球サブセットの浸潤の制御に基づいた新たな自己免疫・アレルギー治療へと展開するための研究基盤を確立することが目的である。本年度は、リンパ球浸潤の分子機構を解明するため、リンパ球のローリングや浸潤を媒介することが示されているセレクチンやセレクチンリガンドファミリーに属するL-selectin, PSGL-1, CD43, CD44などの細胞表面接着分子を細胞骨格のアクチンフィラメントにクロスリンクするERMタンパク質ファミリーメンバーのmoesinの役割について、moesin欠損マウスを用いて検討した。その結果、moesin欠損マウスでは、T細胞の胸腺からの移出が障害されていることを見いだした。また、骨髄で産生された未熟B細胞の骨髄実質から類洞への移出にも障害があることを見いだした。さらに、末梢では、リンパ節や脾臓などの二次リンパ臓器からの移出が遅延することを見いだした。リンパ球は主にezrinとmoesinの2つのERMタンパク質を発現しており、ERMのリン酸化状態の変化が細胞の形態変化や移動に重要であることが示唆されてきた。本研究では、moesinが主要なリン酸化ERMであることを示し、その活性制御がリンパ球のトラフィッキングに重要な役割をもつことを明らかにした。
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