【目的】中央防災会議等で救急医療活動に「入院患者の域外搬出の必要性」が指摘されるが、被災地内病院ハザードマップ作成、病院入院患者や福祉施設入所者数の分析、搬送時間などアクセスシミュレーションした域外搬送の定量化、域外搬送したときの搬送者の集中に伴う搬送先候補病院・福祉施設の都道府県別負荷調査、それに基づく南海トラフ巨大地震(南海地震)への具体的な取り組みの記述はない。今回、南海地震で5m以上の浸水深を予想し、地理情報システム(GIS)を活用し、都道府県別医療搬送の影響を定量可視化した。【方法】南海地震モデル検討会で5m以上の浸水が想定される市町村の病院・老人ホーム、老健を被災施設、それ以外の施設を搬送先候補施設と設定し、被災施設から自動車運転時間で最寄りの搬送先候補施設を搬送先として決定した。病院の場合は被災病院の診療科と同じ診療科があることとした。到達時間のばらつきを都道府県別に分析した。福祉施設の場合は搬送予定人数と受入れ被災施設数がもたらす搬送先の負荷を推計し、都道府県別に集約した。【結果】被災病院は297施設、被災老人ホーム・福祉施設は239施設、搬送先病院、老人ホーム、老健までの到達時間が最大の病院・施設がある都道府県は高知県で、同県は病院、老人ホーム、老健の被災予測施設数が最多であった。老人ホーム・老健の「搬送予定数の高負荷となる施設数」と「受入れ被災施設数が高負荷となる施設数」が最多の県は宮崎県であった。【考察】GISと施設機能情報、南海地震モデル検討会の都府県別市町村別浸水面積一覧表とを活用し、5m以上の浸水深の想定地域の施設被災状況と搬送状況を分析した。搬送アクセス、想定収容人数がばらつき、搬送先の集中化する地域があった。本研究は災害医療提供の衡平性の可視化と定量化を可能にし、災害対策として「効果効率的な患者搬送先と搬送患者数の決定」に資すると考える。
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