研究概要 |
医療保険の保険者の機能,役割を明らかにすることを目的に,被用者保険および国民健康保険の保険者を対象とした実態調査を行った.被用者保険については被保険者75000人を擁するC健保組合の管理者に対する聞き取り調査を行った.国民健康保険については全国の特別区を含む市町村国民健康保険の1723の保険者に対する郵送調査を実施した.調査項目としては,保険者が考えている保険者機能,各事業の実施過程と成果と評価,関係者の研修,各種データベースの活用状況,レセプト審査状況と活用状況,収支の実態,収納対策,関連機関との連携・協働,保健・医療事業への関わり,情報の収集・分析・提供のあり方,苦情処理のあり方などである.C健保組合については,意思決定,人材育成,関係機関との連携,個人情報保護などの保険者機能については十分発揮できているのに対し,情報の収集と分析,特定健診の事後指導,がん検診などの健診機能,健康づくり支援機能,被扶養者支援機能などは十分でなかった.国民健康保険保険者への郵送調査に対しては619の保険者(35.9%)から回答を得た.保険者が考える保険者機能としては,給付の適正化(79%)と保険料徴収(74%)が多く,次いで,保健サービス提供(39%),事業の効率性(36%),情報分析(35%),事業の有効性・公平性(それぞれ28%)があげられた.一方,被保険者の権限拡大,医療機関の支援,住民参画支援,医療機関の監督をあげた保険者は1割に満たなかった.個別の事業実施状況では,毎月のレセプト点検,被保険者への紙媒体による情報提供,ジェネリック医薬品お願いカードの作成配布,特定健診と他の検診との同時実施などは8割以上の保険者が実施していたが,国保連合会の収納率対策アドバイザーの活用は1割程度であり,苦情対応の第三者機関設置,事業計画に対するパブリックコメントの把握,保険者機能の自己評価の実施,事業委託機関に対する研修,悪質な業者を排除する取組を実施している保険者は1割未満であった.
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今後の研究の推進方策 |
医療保険および介護保険の保険者機能を明らかにし,保険者機能を評価する視点・評価項目を定め保険者機能の評価指標を作成する.保険者機能評価指標の作成により各保険者内および各保険者間での比較が行われることにより,それぞれの保険者の特徴が明らかとなり,保険者が取り組むべき事業,保険者機能を強化するための方策樹立のための資料になる.保険者機能評価システムのあり方としては,保険者協議会などに保険者機能を評価する役割・部署を設置することなどを提言する.さらに,保険者機能の評価が公表されることは,結果として,被保険者の権利と安全の確保,サービスの適切な提供,サービスの質の確保,保険運営管理の合理性に寄与するものになるものといえる.さらに,保険者の編成のあり方等を含む制度設計の見直しにもつながるものと考える。
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