マダガスカルの医療政策では、マラリア迅速診断検査陽性の場合にのみ抗マラリア薬であるアルミシニン系合剤を処方することが定められている。しかし、医療現場では、検査結果が陰性にもかかわらず、抗マラリア薬が処方されることが多いことが従来の研究からわかっており、その原因を明らかにすることが求められている。本年度は、マダガスカル各地で一次医療施設に勤務し抗マラリア薬の処方を担当する医療従事者(医師、看護師)を対象とした処方行動データを収集した。また、オープンエンドの質問による聞き取り調査資料に基づき質的研究を行った。 その結果、なぜ迅速診断検査が陰性でも抗マラリア薬を処方するのかという問に対しては、(1)医療従事者にとって最も大切なのは医療政策に従うことではなく患者を助けることであるため、(2)患者にとって最善の治療方針を理解しているのは政策立案者ではなく医療従事者であるため、(3)これまでの医療従事者としての経験から発熱患者には抗マラリア薬が有効であるためという回答が抽出された。 また、迅速診断検査陰性時にどのように抗マラリア薬を使用するのかという問には、(1)ガイドラインに記載のないアルテミシニン系合剤を処方する、(2)アルテミシニン系合剤以外の従来の抗マラリア薬を処方する、(3)他のガイドラインを参照にして処方することがわかった。さらに、(1)マラリア以外の発熱要因が考えられない患者、(2)治療内容と経過からマラリアが疑われる患者には、迅速診断検査で陰性にもかかわらず抗マラリア薬を処方する傾向があった。 医療従事者は、患者個人の利益を優先する傾向があり、そのことが社会全体の利益となる「マラリア迅速診断検査陽性の場合にのみ抗マラリア薬を処方すること」との対立を生み出していると考えられた。ガイドラインはこういった医療従事者の特質を考慮に入れて策定する必要がある。
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