本研究では、費用対効果を考慮し、かつ、薬価制度に期待されている医療費の適正化、画期的なあるいはアンメットメディカルニーズを満たす医薬品の開発促進、ドラッグ・ラグの解消といった様々な要素を包含した薬価制度のあり方を検討するための基礎となる研究を行い、それらの結果を基に新たな薬価制度を提案することを目的としている。研究方法としては、まず制度案について仮に10年前からそれらがわが国に導入されていたとしたら、総医療費にどのような影響を与えたかをシミュレートすることにしている。今年度は新薬創出等加算の医療費への影響をシミュレートした。具体的には、この制度が2002年の改定から導入されたと仮定して、対象となる1988年4月以降に発売された新薬について、2002年~2011年における仮想薬価をその間の実際の薬価引き下げ率をもとに設定し、仮想薬価と実際の薬価との比率を求め、これを販売金額に乗じることにより医療費の増加額を推計した。合わせて、新薬創出等加算の対象となった新薬を比較対照薬として薬価が算定された新薬についても、仮想薬価をもとに薬価を再算定し、医療費への影響を見た。以上の結果、2002年から2011年までの間の医療費増加額は、2兆3284億円、新薬の薬価算定に際して、比較対照薬の新薬創出等加算額を考慮しない場合には、1兆9820億円となった。さらに、ドラッグ・ラグの原因の一つであるグローバル企業におけるわが国での開発着手の遅れの要因がわが国の薬価制度にあるとの仮説をたて、3,4年前に日本で承認され米国と3年以上のドラッグ・ラグのあった新薬7成分について、発売後3年間の売上高を日米で比較した。一部を除き、売上絶対額および売上高の伸びのいずれも日本の方が低く、研究開発費を早期に回収するという目的では日本の市場が適していないとグローバル企業が判断してもおかしくないことが示唆された。
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