研究概要 |
本研究は東京大学大学院工学系で開発された患者状態適応型パス(PCAPS)を基にCOPD診療の電子化パスを用い診療均てん化,標準化を目指し,かつCOPD診療の質向上のための対策を検討することが目的である.平成23年度は以下の1)-4)の調査・検討を実施した. 1)COPD連携パスの中で主体となる診療パスは昨年度に完成したが,これに付随するリハビリテーション,酸素療法,吸入療法指導,訪問看護についてそれぞれの介入プロセスを可視化する作業を行った.従来,診療・指導・介入の決定時には,教科書やガイドラインには示されていないが,各人の状況判断でなされていた思考過程が存在し,これを共有・評価できるプロセスへと昇華し,パスとして再利用することが狙いである.これは今まで明らかにされていなかった診療・指導領域での新たな試みである. 2)増悪の外来治療につき患者のアクションプラン(AP)を含んだ新たな増悪管理パスを作成した.協力病院の予備調査ではAPにより3割程度が入院回避できていることが判明し,APが整備されれば増悪管理上,有意であることが判明した.入院パスについてはアウトラインのみ作成終了し,次年度に持ち越す. 3)増悪入院時の臨床判断,治療の違いをみるため,5つの調査施設で増悪治療内容の詳細調査を実施.入院日数に2週前後,4週前後と2極化が見られ,またステロイド使用方法にも施設差が認められた.このようなベンチマーキング作業はまだ実施例が少なく今後COPD標準治療を設定する上での重要な資料となる. 4)日本医師会の協力により東京都を中心に医師会会員に対してCOPD診療に関するアンケート調査を実施した.2287名の回答があり,スパイロメトリー使用率は45%と低く,増悪診療経験は68%にあるが,ステロイド投与まで経験があるのはそのうちの44%に留まった.一般医における診療均てん化の必要性が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定よりも増悪調査の対象数が少なかった.調査を実施するにあたり施設の協力が得られない,調査方法が煩雑である,診療記録の内容に左右されるなどの問題が発生しているため,当初の予定より遅れている.また診療の質向上対策の一つとして予定したE-ラーニングの作成についてはコストなど提供方法に問題があり,当初の計画通りには着手できなかった.協力病院で予定のPCAPSの電子カルテ上の実装も未定の状態である.
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今後の研究の推進方策 |
COPD連携パスの作成は概ね完成したが,まだ実際の患者による動線の確認ができていない.次年度は実際の患者例による検証を進める.また増悪管理の外来・入院パスについては外来パスの検証が一部で完了したため,次年度に修正を行う.また入院パスについては未完成のため,次年度内の完成を目指す.さらに増悪管理パスについては協力機関の前橋赤十字病院にて実装トライアルを検討する.PCAPS自体が質評価に必要なデータ収集を支援できるはずだが,既存システムとの兼ね合いにより当初よりもPCAPSの実装の遅れが懸念されるため,紙媒体による新たな質評価指標の作成も着手する.
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