研究代表者(以下、「筆者」と記す)は昭和61年8月期から、与論島での死生観・地域住民の死亡場所・終末期医療など、総合的な調査研究に着手している。近年、与論島の埋葬を伴う葬送のあり方が変化し、埋葬されている死者が10人を切った。このことは、洗骨習俗の消失を意味している。沖縄における洗骨と違い、与論島では洗骨そのものの継承を求める支持層が高齢者ならずとも若者層にも根強い。このことは、島の死生観が若い世代にまで浸透していることを意味していると筆者は考えている。洗骨が消失して行こうとしているため、与論町教育委員会の協力を得て、与論中学校生徒における洗骨体験そのもの・死者儀礼や自宅死亡に関する認識などに関するアンケート調査を実施した。また、近年、与論島では新たな葬送形態の変遷が起ころうとしている。既に建設のある火葬場の次に、民間の葬祭場の建設がなされようとしている。この葬祭場建設は、葬式・3日祭り・10日祭りといった葬送儀礼の変化につながる可能性がある。このため、与論町役場専任職員の協力を得て、洗骨経験の有無・葬祭場建設による死者儀礼の実施場所・自宅死亡をめぐる内容などをアンケート調査した結果を研究成果報告書に掲載した。医療と死生観は密に結びついており、筆者は地域住民の持つ死生観分析は極めて重要であると考えている。また、こうした内容を医学教育の場でも教示する必要があると考えている。今回は、与論島を中心とした調査をもとに、当該地域の死生観研究の基礎的なデータ収集を図り、研究途次内容を衛生学公衆衛生学系の2学会で示した。
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