本研究の目的はMDM2阻害薬によるp53活性化が、胃癌に対し有効であるか否かを明らかにすることにある。MDM2阻害薬の一つである低分子化合物nutlin-3を用い、平成22年・23年度に引き続き、その抗腫瘍効果を種々の胃癌細胞株でin vitroとin vivoにおいて検討した。平成23年度にp53野生型MKN45細胞株担癌マウスの作成後、in vivo実験の予備検討として、nutlin-3を様々な濃度にて腹腔内投与した。その結果、コントロール群に比べ、投与群で明らかな抗腫瘍効果が確認され(-42%)、この効果は5-FUの併用によりさらに増強した(-80%)。本年度は、平成23年度に行った動物実験の予備検討に引き続き、in vivoでの抗腫瘍効果の再確認をすべく、動物実験を実施し、その有効性と安全性を再確認した。また、移植腫瘍組織の免疫染色にて、著明なp53とPARPなどのアポトーシス関連蛋白の発現誘導が認められた。次に、ヒト胃癌切除標本100サンプルを用い、免疫染色法にてp53とMDM2蛋白の発現解析を行った。結果ではそれらの発現頻度は各々16%、22%であり、p53変異率は従来の報告同様、PS不良例や病期進行例で有意に高かった。MDM2の発現については、病期や予後との関連性は認められなかったが、高発現の集団が20%以上で認められ、MDM2阻害剤の治療対象となり得る可能性が考えられた。以上の結果は、第20回日本消化器関連学会週間において発表した。今回の我々の研究はMDM2阻害が新たな胃癌治療薬開発戦略として有望であることを示した初めての報告であり、胃癌最多発国である我が国にとって意義深い。
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