研究概要 |
がん薬物療法における有害事象として、末梢神経障害を引き起こす薬剤が注目されている。大腸がんのキードラッグであるオキサリプラチン(L-OHP)による末梢神経障害は、蓄積性で用量規定因子である。重篤な場合、治療の遂行が不可能となり、治療効果の妨げとなる。本研究では、オキサリプラチンによる末梢神経障害の出現と関連する遺伝的背景を明らかにし、より安全かつ効果的ながん薬物療法の推進に寄与することをめざしている。 我々は、除去修復交差相補群 1(ERCC1)およびグルタチオンS-転移酵素(GSTP1)の一塩基多型(SNP)について解析し、ERCC1C118Tにおいて、T/T genotypeの患者はC/CおよびC/T genotypeの患者に比べグレード1の神経障害発症までの期間が有意に短く(p=0.0162,Wilcoxon test)、GSTP1 Ile105valにおいて、Ile/Ile genotypeの患者はIle/ValおよびVal/Val genotypeの患者と比べ神経障害発症までの期間が有意に短かった(p=0.0321 同)。これらの遺伝子多型は末梢神経障害の予測因子であるとともに、その発症機序に関わっている可能性があることを報告した(Inada et al, 2010)。この結果は主要文献(Lancet Oncology, Review: Chemotherapy-induced peripheral neurotoxicity in the era of pharmacogenomics)中にも引用されている(Cavaletti et al, 2011)。 近年、韓国人からL-OHPによる末梢神経障害の発現予測因子となるSNPが全ゲノム解析の手法を用いて報告された(Won et al, 2011)。日本人でのデータとして当院での対象患者71名について解析を行い、一部のSNPでは同様の結果を得た。学会にて比較検討した発表を行っており、今後解析を進めて論文化を計画中である。
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