急性前骨髄性白血病の標準的治療薬である亜ヒ酸は、QT延長をきたすことが多く、しばしば使用が制限される。これまでに研究代表者らは、亜ヒ酸の正常細胞に対する毒性メカニズムとして酸化ストレスの関与を明らかにし、試験管内では抗酸化物質であるα-リポ酸がその毒性を軽減することを見出した。そこで本研究は、ラットを用いて、α-リポ酸やその他の抗酸化物質が亜ヒ酸によるQT延長および致死性不整脈を予防できるか否かを明らかにすることを目的とした。 雄性Wistarラットに亜ヒ酸5mg/kg/dayを反復投与したところ、約4週間投与した時点で4匹中2匹が突然死したが、α-リポ酸35mg/kg/dayを併用した群では8週間の投与終了時点まで死亡例は認められなかった。 次に、雄性Wistarラットに亜ヒ酸を単回静脈内投与し、2時間後まで心電図を観察したところ、QT延長は認めなかったが、全例で投与後早期(5~30分)に一過性のST-T変化を認めた。さらに、このST-T変化は、α-リポ酸を前投与することにより完全に抑制された。なお、α-リポ酸による心電図変化は認められなかった。以上より、α-リポ酸は亜ヒ酸による急性心毒性を軽減し、突然死を防止することが示唆された。 ラットでは亜ヒ酸の少なくとも単回投与によるQT延長作用が認められなかったことより、雄性Hartleyモルモットを用いて同様の検討を実施した。その結果、モルモットにおいては亜ヒ酸の用量依存性にQT延長作用を認めることが明らかになったため、現在、α-リポ酸のQT延長抑制効果についても検討中である。 本研究の成果は、直ちに亜ヒ酸の有害反応軽減法の臨床開発につなげることが可能であるため、急性前骨髄性白血病の治療の安全性向上に大きく寄与することが期待される。
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