急性前骨髄性白血病の標準的治療薬である亜ヒ酸は、QT延長をきたすことが多く、しばしば使用が制限される。これまでに研究代表者らは、亜ヒ酸の正常細胞に対する毒性メカニズムとして酸化ストレスの関与を明らかにし、試験管内では抗酸化物質であるα‐リポ酸がその毒性を軽減することを見出した。そこで本研究は、動物を用いて、α-リポ酸やその他の抗酸化物質が亜ヒ酸によるQT延長および致死性不整脈を予防できるか否かを明らかにすることを目的とした。 平成22年度は、Wistarラットを用い、亜ヒ酸は、単回投与により一過性の心電図変化(ST-T変化)を来たし、反復投与により突然死を惹起すること、さらに、α-リポ酸の併用によりこれらの心電図変化や突然死が完全に抑制されることを見出し、報告した。 平成23年度は、Hartleyモルモットを用い、亜ヒ酸の単回投与によりQT延長が惹起されること、α-リポ酸の投与はこの亜ヒ酸によるQT延長を予防(前投与時)あるいは軽減(治療投与時)することを見出した。 平成24年度は、α-リポ酸のQT延長抑制機序を検討し、モルモットの単離心筋細胞を用いたパッチクランプ法によりα-リポ酸が亜ヒ酸によるIKs電流抑制を軽減すること、ESI-TOF MS法によりα-リポ酸が亜ヒ酸と複合体を形成することを明らかにした。 本研究の成果は直ちにQT延長薬の克服法の臨床開発につなげることが可能であり、薬物療法の安全性向上に大きく寄与することが期待される。
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