研究概要 |
当該年度は,1)ヒト脂腺細胞におけるゲフィチニブによる皮脂産生調節,2)ゲフィチニブ誘発性皮膚障害の病型分類とざ瘡様排泄物の採取,3)ゲフィチニブ投与患者からのアンケート調査を,東京薬科大学(2グループ)および虎の門病院皮膚科(1グループ)の共同研究体制で実施した.以下に研究成果の概要と次年度計画との関連性を記す. (1)ヒト脂腺細胞におけるゲフィチニブによる皮脂産生調節(東京薬科大学・佐藤) 研究代表者は,虎の門病院より供与されたヒト皮脂腺より皮脂産生能を保持する脂腺細胞の樹立方法を開発した.また,このヒト脂腺細胞においてもゲフィチニブが皮脂産生を促進することを初めて見出した.すなわち,ゲフィチニブ投与患者の皮膚障害はその薬剤による直接的な皮脂産生に起因することが初めて示唆された.したがって,次年度ではゲフィチニブによる皮脂産生促進の分子機構解明に加え,本薬剤投与のin vivo動物実験モデルにおける皮脂産生およびゲフィチニブの皮膚局在性を明らかにする予定である. (2)ゲフィチニブ誘発性皮膚障害の病型分類とざ瘡様排泄物の採取((財)沖中記念成人病研究所・林) 共同研究者の林が虎の門病院((財)沖中記念成人病研究所)に移動したので,本研究課題について虎の門病院倫理員会の承認を得た.また,本計画に基づき6例の患者由来組織の提供を受け,上述のヒト由来細胞樹立に至った.さらに,ゲフィチニブのみならずEGFRを分子標的とする抗体医薬品で生じるざ瘡様皮疹の病型分類に基づき,3例の患者よりざ瘡様排泄物を採取した.次年度もその排泄物を採取するとともに,排泄物中のゲフィチニブの局在性を解析することで薬剤排泄経路および副作用機序の解明に繋がるものと期待される. (3)ガン治療薬・チロシンキナーゼ阻害剤による副作用情報の収集(東京薬科大学・太田) 昨年度ご協力頂いた長野日本赤十字病院薬剤部,若林氏とともに3名のゲフィチニブ投与患者より皮膚状態に関するアンケートを回収した.癌治療患者からのアンケート回収は難しい面もあるが,次年度も継続して回収する予定である.また,上記病院におけるゲフィチニブ投与患者からのざ瘡様排泄物の採取に関して,倫理委員会への申請手続きを準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲフィチニブによる皮膚障害の分子機構を見出し,ヒト脂腺細胞を樹立し,ざ瘡様皮疹が患者QOLを低下させている実態を把握できたことから,研究計画は順調に進展している.また,1)ざ瘡治療における抗菌薬の新規有用性,2)ABCトランスポーターを介する新規皮脂分泌機構,3)ストレス性ざ瘡解析モデルの開発,4)アディポネクチン産生細胞として脂腺細胞を同定といった新規研究成果を得ることができ,今後の研究発展に繋がるものと期待される.
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今後の研究の推進方策 |
研究協力者が増え(長野日赤病院),かつ新規研究成果も得られてきたことから,より生産的な研究体制が出来つつある.研究代表者としてこの体制を確立し,医薬連携強化を図る.具体的には,ゲフィチニブ投与患者が少ない虎の門病院の代わりに,長野日赤病院の協力のもと該当患者からの皮疹排泄物を採取・提供してもらう。一方,虎の門病院には抗体医薬品投与患者由来皮疹排泄物の採取・提供をしてもらい,ゲフィチニブと比較検討する.
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