研究課題/領域番号 |
22590507
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
吉川 良恵 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (10566673)
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研究分担者 |
玉置 知子 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10172868)
森永 伴法 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (10351818)
喜多野 征夫 兵庫医科大学, 医学部, 名誉教授 (70028538)
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キーワード | ヒト組織利用研究 / 再生医学 / 細胞内シグナル伝達 |
研究概要 |
本研究は、個人別に低侵襲で得られる細胞系である、抜去毛包に付着する毛包バルジ領域幹細胞より得られたケラチノサイトのオーダーメイド医療への利用を図ることを目的としている。平成22年度に毛包ケラチノサイト(BDK)が、種々の感作性物質に対しHMOX1遺伝子を高度発現誘導し、非感作性物質に対しては誘導しないことを見出した。そこで、本遺伝子を用いてin vitro皮膚刺激性試験、感作性試験適用のための予備検討を行ったが、HMOX1遺伝子は確実に発現誘導されるがその誘導率は実験毎のばらつきが大きく今後の課題を残した。一方ID2遺伝子については、感作性物質であっても発現誘導が起こりにくい物質が存在し、適用には無理があった。そこで研究アプローチの見直しが必要となり、昨年度行ったBDK発現プロファイルデータを詳細に解析し直した。結果、感作性物質に過敏反応を示しやすいアトピー性皮膚炎履歴を有するドナー由来BDKは、本病歴を有しないコントロールBDKに比べ、恒常的にDKK1の発現が低く、IL32,NLRP2,TREM2等の遺伝子発現が高いことが分かった。これらの結果は前者BDKが高い炎症性サイトカイン産生能を示唆する遺伝的バックグラウンドを持つことを示した。そこでBDK炎症系サイトカインIFN-γを添加したところ、アトピー性群BDKは有意にIL32,IL1B,ICAM1遺伝子の発現が高く、IL32とIL1B,IL32とICAM1遺伝子の発現には相関性が見られた。これらのデータより、BDKにIFN-γ添加しIL32やIL1B遺伝子の発現レベルから感作性物質に対する過敏性が予測できることが示唆された。これらのデータは現在peer review誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感作性物質に対するBDKの遺伝子発現誘導率が安定性に欠けることから健常人の発現誘導能の閾値の設定が不可能であった。そこで、研究アプローチの見直しが必要となった。上述のように感作性物質ではないがBDK提供者の遺伝的バックグラウンドに応じて炎症性サイトカインに対する反応性に有意な差が見られた。これらは本課題の目的に合致した結果であり、アトピー性皮膚炎や皮膚感作性物質に対する過敏症の発症メカニズムを考える上で重要な知見と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アトピー性皮膚炎履歴を有するドナー由来BDKで見られた上述の遺伝子発現誘導は、IL32を介してIL1B他の遺伝子発現誘導を制御していると考えられることから、IL32遺伝子の制御因子がアトピー性皮膚炎発症因子となる可能性がある。そこで、IL32遺伝子の上流制御因子についてマイクロアレイや定量RT-PCRを用いて解明を進める。また、DKK1はケラチノサイト分化制御因子であるため、アトピー性皮膚炎の一因としてケラチノサイト分化異常が関与している可能性を示唆する。そこで健常人由来ケラチノサイトを用いDKK1遺伝子をノックダウンした際の形態変化や細胞バリア機能に関連する分子の発現変化を捉えることで、DKK1によるケラチノサイトの分化制御とアトピー性皮膚炎の関連性に関する基礎的知見を得る。
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