本研究の目的は、食欲不振に臨床適応を有する漢方処方である六君子湯のがん悪液質に対する有効性、およびグレリン受容体を介した作用機序に対する影響を基礎研究レベルで明らかにすることである。当該年度では、六君子湯の評価をするための(1)がん悪液質モデルの作製および(2)六君子湯のグレリン受容体に対する作用の検討を行った。 (1)がん悪液質モデルの作製 がん悪液質は、胃がん患者で高率に発現することが知られているが、胃がん細胞による適した悪液質モデルは少ない。そこで我々は、低分化型ヒト胃がん細胞株(MKN45)由来の細胞株MKN45clone85および85As2(安田女子大学薬学部柳原教授より譲受)を用いて、がん悪液質モデルの作製を試みた。これらの細胞をヌードラットに皮下移植すると、全例においてがん悪液質の臨床診断基準である、有意な体重減少、摂食量低下、脂肪量および除脂肪量の減少、血中炎症性マーカーの上昇(急性期蛋白およびサイトカイン)及び血中アルブミン値の減少を認めた。これらの結果は、今回作製したモデルラットが臨床でのがん悪液質を反映することを示唆した。以上、当該年度において、六君子湯の薬効評価が可能ながん悪液質モデルを作製した。 (2)六君子湯のグレリン受容体に対する作用 グレリン受容体安定発現COS-7細胞にG-CAMP2をトランスフェクションし、細胞内カルシウム濃度上昇を指標に、六君子湯のグレリン受容体に対する作用を検討した。その結果、六君子湯単独添加では、カルシウム上昇を起こさなかったが、グレリン添加によるカルシウム上昇は、六君子湯の前処置により増強された。この結果から、六君子湯はグレリン受容体に対し、固有活性を示さないが、正のアロステリック作用を示すことが示唆された。このようなグレリン受容体への作用増強効果が六君子湯の作用機序の一部として寄与する可能性が考えられた。
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