本研究の目的は第一に,海藻に特有な酸性多糖および抗酸化成分とその構造類似物質等の中から顕著な血管新生抑制効果を発揮する物質を探索し,その制御機構を究明することによって、固形がんおよび血管新生性疾患の治療と予防に新たな道を開くこと、第二に、上記物質が骨転移阻止物質として有効となり得るかどうかを明らかにし、付加価値の高い治療予防薬の開発に新しい選択肢を提供することである。 紅藻クロハギンナンソウ、緑藻ミル、および緑藻の一種A(特許取得の都合上公開できないため、緑藻Aとする)の1.0Mから1.5MのNaClで溶出した酸性多糖画分に強い血管新生阻害活性が認められることを報告した。そこで本年度は新たに緑藻の一種B(同都合上、緑藻Bとする)を検討した結果、同様の画分に強い血管新生阻害効果が認められた。また褐藻C(同都合上、褐藻Cとする)には他の4種より幾分弱い血管新生抑制作用が認められた。次に、フィコシアニン等を含有する紅藻クロハギンナンソウ、およびシフォナキサンチン等を含有する緑藻ミルおよびA、フコキサンチンを含有する褐藻Cの粗脂質画分の血管新生への作用を解析した。その結果、ミルおよびクロハギンナンソウに血管新生阻止効果が認められた。更に血管の伸展に関わる細胞の運動能に、酸性多糖が作用を及ぼすかどうか微小血管内皮細胞を用いた創傷治癒アッセイにより検討した。1.5M NaClで溶出した酸性多糖画分は概ね遊走を抑制する傾向が認められた。最後に骨転移の抑制に効力を有するかどうか、破骨細胞による骨吸収窩を解析した。現在までの処、強い血管新生阻止作用を有する酸性多糖画分によって破骨細胞の分化は抑制される傾向が認められている。 以上より、海藻由来酸性多糖画分と脂質画分は血管新生阻止作用を有すること、酸性多糖画分は血管内皮細胞の運動能を抑制し、かつ骨転移を抑制する可能性も有することが明らかとなった。
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