本研究では申請者が若手研究(B)「質量顕微分析を用いた疾患組織検査法の確立」(研究期間2008-2009)において確立した新規の疾患組織検査法の実用性を検討する。本手法は、質量顕微鏡を用いて得られたデータに多変量解析を適用することにより、数十-数百種類もの代謝物データの中から、疾患特異的に変動する代謝物ピークを数個に絞りこむ手法である。申請者はこれまでにモデル動物を用いて本手法の有効性を報告した。本研究の目的は、この手法が臨床検査及び基礎研究においても応用可能であることを示すため、実際にヒト病理組織を用いて新規に確立した手法を評価することである。評価項目は、再現性と汎用性である。再現性に関しては、これまでに研究を行っているAdipose Tryglyceride l-ipase (ATGL)変異症を用いて行い、汎用性に関しては、動脈硬化性血管を用いた。 今年度は、ATGL変異症患者筋肉の脂質代謝異常に関する解析を行い、前年度前に得られた結果と同じ結果が得られることを確認した。また、代謝異常が引き起こされている脂質がホスファチジルコリンであることをMS/MSによって同定した。さらに、適用範囲を広げるために、動脈硬化性疾患の解析も行い、動脈硬化の解析にも本手法が適用できることを示し、動脈硬化病巣における新規の脂質代謝異常を見出した。
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