研究課題
深部静脈血栓症・肺塞栓症(静脈血栓塞栓症)の発症は、診断技術の進歩に伴い日本人にも決して少なくないことが明らかとなり、高齢化社会を迎えた日本においても増加する静脈血栓塞栓症の発症リスク因子の解明は重要な課題である。現在まで、様々な先天性血栓性素因の原因遺伝子変異が報告されて来たが、未だその原因遺伝子変異が不明な症例も多い。我々は、原因が不明であった血栓症の新しいリスクファクターとしてプロトロンビン遺伝子変異を同定した。本症例は、3世代の家系内に7名の血栓症罹患者がおり、既知の血栓性素因(アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSの各欠損症等)の解析が進められたが、その原因特定に至らなかった。今回,同定したプロトロンビン遺伝子変異は活性化を受けたトロンビンのアンチトロンビン結合部位のミスセンス変異が予想され、この異常トロンビンはアンチトロンビンによる凝固制御が十分でない血栓性素因となることが予想された。組換え変異型プロトロンビンの活性を調べたところ、野生型に比べ凝固一段法では16%、凝固二段法では29%とかなりの低下を認めたが、合成基質法では75%の活性を保有していた。この違いは凝固法基質のフィブリノゲンが合成基質に比べ巨大分子であることのに由来すると思われた。一方、組換え変異型トロンビンは野生型に比べアンチトロンビン結合能が高度に低下し、トロンビン生成試験で総トロンビン生成量増大、トロンビン生成終了時間延長を認めた。すなわち、本変異はプロトロンビンの凝固活性を低下させるが、活性化された変異型トロンビンはアンチトロンビン抵抗性を示すことが明らかとなり、本症例の血栓症発症の要因であることが推察された。今後、原因同不明の血栓症症例において、開発した血漿検体でのスクリーニング検査法を用いアンチトロンビン抵抗性を示す症例の同定を進めて行く予定である。
2: おおむね順調に進展している
プロトロンビン遺伝子変異を同定し組替え変異型プロトロンビンの性状解析より,活性化変異トロンビンがアンチトロンビン抵抗性を示すことを明らかにし、血栓症発症要因である可能性を示した。今後、今まで原因同定されていない血栓症症例において同様なアンチトロンビン抵抗性を示す症例の同定を進めて行く予定である。
今後、今まで原因同定されていない血栓症症例において、血漿検体でのスクリーニング検査法を開発しており同様なアンチトロンビン抵抗性を示す症例の同定を進めて行く予定である。
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