研究課題
ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)は、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである。ATLは高ウイルス量キャリアから発症することが判明しておりウイルス量を減少させることがHTLV-1関連疾患の予防に有効と考えられる。本研究においては我々が確立したHTLV-1キャリア末梢血液単核細胞のNOGマウス移植ゼノグラフトモデルを用いることで、HTLV-1細胞間感染と感染細胞クローン増殖のメカニズムを解明し、HTLV-1感染の予防と治療の可能性を探ることを目的とする。平成23年度においては、無症候性HTLV-1キャリアより末梢血液単核細胞を採取し、NOGマウスに接種を行らた。長期キャリア細胞接種群では短期キャリア細胞接種群よりも感染細胞数の増加が著しい傾向を示した。このことは長期キャリアには増殖能の高い細胞が存在することを示唆するものと思われた。移植前のキャリアPBMCとNOGマウスで増殖した感染細胞のプロウイルスpol領域のメチル化を比較したところ、キャリアPBMCではメチル化が亢進していたが、NOGマウス移植後に増殖したHTLV-1感染細胞ではメチル化が低下することが明らかになった。さらに、NOGマウスにHTLV-1抗体を含むキャリア血清を投与し移植を行ったところ、非投与群に比較しメチル化の低下は著明でなかった。これらの結果から、キャリア生体内では感染細胞のプロウイルスはメチル化によりウイルス蛋白の発現が抑制されているが、NOGマウスに移植されることによりメチル化が解除されることが示された。さらにキャリア体内ではプロウイルスのメチル化を促進し、ウイルス蛋白の発現を妨げ、ウイルスの増殖や2次的な感染細胞増殖を抑制している機構があり、抗体を含む血清因子が関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
長期感染キャリアと短期感染キャリア由来細胞を予定通りNOGマウスに接種し、長期感染キャリア由来細胞接種マウスでは、感染細胞量が多く、キャリア血清によりプロウイルスのメチル化が解除されることを見出した。これは当初の目的であるキャリアにおけるHTLV-1の細胞間感染因子や、ATL細胞に近似したクローン増殖細胞の同定につながる知見であると思われる。
今後ゼノグラフトモデルマウスを用いて、感染細胞のTSLC-1抗体等ATLに発現する蛋白についてのFACS解析、細胞培養と培養上清中のサイトカイン産生の検討、プロウイルス解析などを行い特に長期感染キャリアでのATL近似細胞の有無を検討する。あわせてどのような因子が感染量を低下させるか検討する。
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