研究概要 |
抗体可変部であるVH, VLドメインは, 抗原との結合に関与する相補性決定部 (CDR) と, CDRを支える枠組み領域 (FR) から成る. FRの多様性はCDRに比べて小さく, 同じ可変部サブグループ内では類似の配列をとる. これまでに, 抗ハプテン抗体アミノ酸配列のデータベースを作成して精査し, VHのサブグループとして IIAとIIIDが, VLのサブグループとしてIIとVが高頻度に現れることを見出した. その一方で, 変異一本鎖Fvフラグメント (scFv) ライブラリーの多様性を高めるためにファージ提示用ベクターを改良した. そこで,以上の結果をもとに,当研究室で既にクローニングした抗コルチゾール (CS) 抗体scFv [サブグループVH = IIB (IIAと酷似),VL = II] をマスターフレームとして,ライブラリーを作製した.しかし,期待に反してオリジナル抗原であるCSにさえ,実用的な結合能を示す変異scFvが単離できず,結合部位の構築にVHとVLの2つのドメインを必要とするscFvの複雑さを克服するには,変異導入部位の選択について莫大な試行錯誤が必要と思われた.そこで,よりシンプルなマスターフレームを模索し,ビオチン結合タンパク質であるストレプトアビジン単量体 (stav;単一のドメインから成り分子量はscFvの約1/2) に着目した.stav は8つのβシート (β1~β8) を持ち,連続するβシートはランダムコイル (ループ) で連結されている.そこで,β1~β2間,β3~β4間,β4~β5間のいずれかのループ内に,連続する3アミノ酸に12通りの多様性を生じる変異 [縮重コドン (NDC) による] を導入したライブラリーを構築したところ,エストラジオールとコルチゾールに対する結合能を獲得した変異クローンを単離することができた.
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