本研究の目的は、メタボリック症候群から動脈硬化症にかけての全身的な代謝異常と血管病変に関わる遺伝子および遺伝子と環境因子の交互作用を明らかにする事により、メタボリック症候群および動脈硬化症の発症進展の早期予防に向けて基盤となる遺伝情報を創成することである。本年度はゲノムワイド関連解析(GWAS)あるいは候補遺伝子として主に欧米人において心筋梗塞・冠動脈疾患と関連することが発見された遺伝子・遺伝子多型の効果を日本人高齢者連続剖検例(n=1373)における病理的動脈硬化度において検討した。本年度解析した遺伝子多型は、CDKN2B (rs1333049)、ADTRP (rs6903956)、PDGFD (rs974819)、ADAMTS7 (rs4380028)、COL4A2 (rs4773144)、TCF21 (rs12190287)、UBE2Z (rs46522)、HHIPL1(rs2895811) の8個の一塩基多型(SNP)でありそれぞれが単独であるいは交互作用をもって冠動脈硬化に関連するかを検討した。その結果、冠動脈硬化症を明らかな関連が認められたのはCDKN2B(CC+CG:GG、OR=1.68、95%CI1.21-2.32、p=0.002) およびADTRP(GG:AG+AA、OR=1.78、OR=1.78、95%CI1.17-2.88、p=0.008)であった。これ以外の6個のSNPに関しては冠動脈硬化症と明らかな関連を見出す事が出来なかった。一方、日本人のGWASで発見されたLTA、LGALS2、PPSM6 における疾患感受性SNPの追試実験においては、LTAおよびLGALS2が冠動脈硬化と関連する事が再現された。以上の事は、冠動脈硬化関連遺伝子が日本人と欧米人によって同一なものと異なるものがあることが示唆された。
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