研究目的の1つは老人性肺炎の予防と早期発見のための唾液中抗菌物質ならびに炎症マーカーの選択と測定法の開発であったが、本年度は口腔内の清浄度の指標となる抗菌物質としてヒトβディフェンシン2(hBD2)、早期発見のための炎症マーカーの指標として可溶性Toll様受容体2(sTLR2)をその候補とした。これらの物質については確立された測定法がなかったことから方法論の確立を行った。抗菌ペプチドであるhBD2は強い陽性荷電を有しており、ELISA系での測定で種々の問題があったが、ブロッキング剤にカゼインを用い、反応液に塩化カルシウムを加えることで荷電状態が改善され、濃度依存的な測定が可能となった。また、sTLR2についてはN-末端部分のペプチドを対象としたELISA競合法で良好な結果が得られた。研究目的の2つめは在宅での寝たきり老人からの唾液採取が可能な安全性の高い唾液採取装置の開発を行うことであったが、電池式の小型ポンプとサフィード吸引チューブを組み合わせた簡易携帯型の唾液採取装置が完成し、場所を選ばない安全な唾液採取が可能となった。次にこの唾液採取装置を用いて健常人ボランティアから唾液を採取してhBD2とsTLR2の唾液中濃度を測定したが、遠心処理や界面活性剤の添加など唾液の前処理の違いにより値が2~5倍程度変化することが明らかになった。前処理法についてはどの方法が実際の唾液中濃度を反映するのか今後の検討課題である。 測定法がほぼ確立できたことから、次年度は若年健常人および健常老人のボランティアから唾液を採取し、健常人における基準値を設定し、在宅患者の測定値との比較を行うとともに、他の唾液中成分の測定法の確立、イムノクロマトグラフィー法のような簡易測定法の確立ならびに新規抗菌物質の検索と同定を実施する。
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