本年度はこれまでに確立した唾液中C反応性タンパク(CRP)測定法を用いて実際の臨床応用として老人の炎症性疾患者の検体の測定を行った。 対象として健常人37名、患者16名からインフォームドコンセントを得た上で唾液サンプルおよび血液サンプルを採取した。これらのサンプルを用いて唾液中および血中CRPを測定し、唾液中と血中濃度との相関を評価した。また、口腔内の出血をモニターするために唾液中トランスフェリンを同時に測定した。 その結果、唾液中CRP濃度は84.8pg/ml~86ng/ml、血清中CRP濃度は30.9ng/ml~30μg/mlとなり、両者の間にはr=0.88の良好な相関が見られた。また、唾液中トランスフェリン濃度が1mg/dl未満である検体群では、両者の相関はr=0.96とさらに高くなったことから、唾液中トランスフェリンを同時に測定し、口腔内出血をモニターすることで正確に血中濃度を反映する唾液中CRP測定が可能になることが示された。 本研究のもう一つの課題としてヒトβディフェンシン(hBD)の測定法の確立を行った。hBDは口腔内の抗菌ペプチドの1つで老人性肺炎の予防に重要な物質である。hBDは強い陽性荷電を有することから、唾液中のムチン等の陰性荷電物質と強く結合しており、正確な測定は難しい。本研究では唾液の前処理に界面活性剤(Tween20)と希塩酸を用いることで正確な測定を可能にした。 これらの結果は、唾液中CRPの測定が老人の炎症性疾患の早期発見に利用でき、hBDの測定が老人の口腔内の清浄度の指標として肺炎の予防に繋がる可能性を示唆したもので、介護施設や在宅における老人医療に新たな診断ツールを提供すると考えられる。
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