研究概要 |
【研究目的】近年、大雨の頻度が増し河川氾濫件数が増加しているが、このような水害時は外傷等を通じ複数の微生物に感染する可能性が高いとされている。そこで我々は水環境中の薬剤耐性菌の調査の必要性に注目し、利根川を対象に研究を進め、これまでの研究で利根川水中にアンピシリン(ABPC)、テトラサイクリン(TC)、ゲンタマイシン(GM)に耐性を示す腸内細菌を確認した。そこで今年度は、利根川水中の腸内細菌に対して発育抑制効果の高い抗菌剤の検索を目的とし研究を行った。【実施内容】2010年7月に水サンプルを利根川の上流から河口までの計5地点で行い腸内細菌を分離し、CLSIM100-S20-U(2010)に基づき寒天平板希釈法で薬剤感受性試験を行った。試験に用いた抗菌剤は、ABPC、セファロチン(CET)、セフォタキシム(CTX)、セフタジジム(CAZ)、イミペネム(IPM)、GM、アミカシン(AMK)、クロラムフェニコール(CP)、TC、シプロフロキサシン(CPFX)の10種類とした。【研究成果】河川水から得られた腸内細菌207株の各抗菌剤に対する耐性割合は次の通りであった。ABPC,97.6%;CET,72.0%;CTX,21.7%;CAZ,13.5%;IPM,34.3%;GM,1.4%;AMK,0%;CP,5.8%;TC,11.1%;CPFX,0%。この結果より、利根川河川中の腸内細菌はβラクタム系抗菌剤に対して広く耐性を獲得していることが示唆された。一方、アミノグリコシド系やキノロン系の抗菌剤にはほとんど耐性を獲得していないと考えられた。今年度の結果より、河川氾濫などの水害時に発生した感染症治療には、環境中の薬剤耐性菌の存在を意識した抗菌剤の選択が必要であることが示唆される。
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