本研究は、黄砂の生体への影響、特に肺での作用機構を知ることを目的とした。黄砂の微粒子が肺胞内に進入し炎症を起こす過程で、活性窒素種・活性酸素種によるニトロ化・酸化DNA損傷機構が関係すると予想し、動物実験で黄砂とその成分を投与して、肺組織の変動タンパク質のプロテオーム解析を行い、8-ニトログアニンと8-oxodG測定を組み合わせることにより、黄砂の生体内障害作用とその本体がどこから生ずるのかを明らかにしようとした。プレ実験を含めて過去2回動物実験を行った。22年度の実験では黄砂成分のシリカ投与群と対照群に8-oxodG測定値の有意差は認められなかった。 24年度は新たにICRマウス鼻腔内投与実験を行った。5週令マウスに1週おき5回鼻腔内投与後、肺を取出した。マウス群は無処置群、生理食塩水投与群、黄砂投与群、OVA投与群、OVA+黄砂投与群である。肺組織のHE染色、8-oxodG、ニトロ化DNAの抗体による免疫染色、DNA抽出後HPLCによる8-oxodG定量、タンパク抽出後肺タンパク質のDIGE二次元電気泳動による解析を行った。 この結果、肺組織のHE染色では黄砂投与群で炎症を認めた。免疫染色で黄砂投与群で酸化的損傷の指標である8-ニトログアニン、8-oxodGの生成とi-NOSの発現が示唆された。また黄砂投与群において8-oxodG測定値の有意差を認めた。OVA投与群での差は認められなかった。DIGE二次元電気泳動による解析で黄砂投与群と対照群間に発現の有意差が認められるスポットが数十個見つかったが、スポット切り取り、抽出後のTOFMS解析で今のところ、炎症や酸化的損傷を示す有力なタンパクには至っていない。 総括として、ヒト曝露に近い方法として黄砂のマウス鼻腔内投与を行い、肺組織の炎症と酸化的損傷機構の関与を認めた。関係タンパク質の解析は未だ進行中である。
|