放射線被ばく量の測定はガラスバッジ等を用いて可能であるが、被ばくによる生体影響程度を知るための簡便なばく露影響指標(バイオマーカー)は現時点で開発されていない。そこで本研究ではメタロチオネインアイソフォームをはじめとした複数種の遺伝子発現変動を指標とした放射線被ばくのバイオマーカーとしての可能性を探る。 平成22年度は放射線照射によるメタロチオネインアイソフォーム遺伝子の発現パターン解析を培養細胞系で解析するための条件設定を行った。そのために放射線医学総合研究所の協力を得てX線照射装置を用いたヒト血球系細胞株(HL-60)への照射を行い、遺伝子発現解析のための照射条件(照射量、線量率)を決定した。解析対象遺伝子はメタロチオネインアイソフォーム遺伝子に加え、ヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子も測定系に加えることとし、そのための条件設定を行った。本遺伝子は酸化ストレスに対する重要な防御因子で放射線による転写誘導が知られていること、また複数種の遺伝子解析によりバイオマーカーとしての精度上昇が期待できる。これら遺伝子について、照射24時間後の細胞生存率から、低線量域(30~100mGy)および高線量域(2~8Gy)照射後の発現解析が進行中である。 一方、医療現場におけるフィールドについて分担者(木村)が打診を進め、大阪にある中規模病院の放射線科医師および技師について協力依頼を行い受託された。そのため上記遺伝子解析の進行状況を考慮しつつヒトにおける被ばく前後のメタロチオネインアイソフォーム遺伝子解析も可能となったと考えられる。
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