研究概要 |
放射線被ばく量の測定はガラスバッジ等を用いて可能であるが、被ばくによる生体影響程度を知るための簡便なばく露影響指標(バイオマーカー)は現時点で開発されていない。そこで本研究ではメタロチオネイン(MT)アイソフォームをはじめとした複数種の遺伝子発現変動を指標とした放射線被ばくのバイオマーカーとしての可能性を探る。 平成23年度は放射線照射によるMTアイソフォーム遺伝子の発現パターン解析を培養細胞(HL-60細胞)で行った。照射は放射線医学総合研究所においてX線照射装置を用いた0.03Gy~8Gyの照射量で行い、照射24時間後のMTアイソフォーム遺伝子の発現変動を定量PCR法で解析した。その結果、MT-2A発現量の有意な上昇に加え、MT-1A及びMT-1Eの発現量増加が認められた。これらの増加は1Gyより低線量の照射量では認められず、また他のアイソフォーム遺伝子の変動は8Gyの照射でも観察されなかった。さらに酸化ストレスに対する重要な防御因子で放射線による転写誘導が知られているヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子の発現変動も同時に調べたが、プライマー設計に問題があるのか複数のPCR産物が検出され、プライマー配列を検討し作製し直しても単一産物の増幅とはならなかったため現時点では結果が出揃っていない。メジャーな遺伝子であることからプライマー配列の変更で解決できると思われる。以上の結果よりMT-2A,-1A,-1Eが放射線照射により発現変動したことから、これら3種を中心に照射条件を変えて(照射後の時間、照射時の血清の有無、照射量の再検討など)、さらに解析を進めると共にパターン化を試みていく。 一方、医療現場におけるフィールドについては共同研究者(元研究分担者:木村真三)が大阪にある中規模病院の放射線科医師および技師について協力依頼を行った。木村の所属先変更に伴い実施については現時点で未だ保留であるが、次年度での実験予定には組み込む。
|