研究概要 |
放射線被ばくによる生体影響程度を知るための簡便なバイオマーカーは現時点で開発されていない。そこで本研究ではメタロチオネイン(MT)アイソフォームをはじめとした複数種の遺伝子発現変動を指標とした放射線被ばくのバイオマーカーとしての可能性を探る。 MTアイソフォームの発現は金属や酸化ストレスによって著しく誘導されることが数多く報告され、動物実験でもMTの誘導が報告されている。しかし培養細胞を用いた本検討ではメインアイソフォームであるMT-2AやMT-1Xなどの誘導が殆ど認められなかった。そこで照射量を上げる(1 Gy~50 Gy)、照射後の解析時間を変える(24時間後、48時間後)など、照射条件を様々に変えて検討したが、やはりこれらメインアイソフォームの変動は観察されず、X線照射により殆どのアイソフォームがむしろ発現抑制を受けると結論付けた。なお、この時の細胞生存率は90%以上であり、障害によるものではないと考えられる。本検討ではMTメインアイソフォームの誘導条件を見出す必要があると考え、他のマイナーアイソフォームの解析が遅れたが、次に、得たサンプルについてこれらマイナーアイソフォームについての発現量を定量した。その結果、メインアイソフォームが抑制を受ける照射量で、MT-1H及びMT-4の明らかな誘導が認められた。例えばカドミウムでは程度の差はあるが全てのMTアイソフォームが誘導される。しかしX線では抑制アイソフォーム(MT-2A, -1X)、無変動アイソフォーム(MT-1G)、誘導アイソフォーム(MT-1H, MT-4)に分類された。この結果は、MTアイソフォームの発現パターンがX線照射による生体影響を反映するバイオマーカーになる可能性を示す。 なお、医療現場での発現パターン解析は共同研究者(元研究分担者:木村真三)の所属先変更に伴い実施が困難となり、当該年度では実現しなかった。
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