医療従事者は職業上、日常的に抗悪性腫瘍剤を取り扱っている。近年、国内においても職業性抗悪性腫瘍剤の曝露による健康影響が危惧され、徐々に安全対策が進んできている。健康リスクを評価する、あるいは安全対策の効果を検証する際には、従事者の抗がん剤被曝量を明らかにする必要がある。本研究の目的は,日本の医療現場で多用されているシクロホスファミドおよびフルオロウラシルおよびに対する高感度で選択的な生物学的指標の測定方法を開発し、医療従事者の抗がん剤曝露状況を明らかにすることである。 平成24年度には、2007年~2011年まで継続的に職場環境中抗がん剤モニタリングを実施した病院Aの薬剤師を対象に、尿中フルオロウラシルの代謝物であるアルファ-フルオロ-ベータ-アラニン(AFBA)量を測定した。チェックリスト(吉田ら、2011)を用いて病院Aの安全対策の進行状況を評価したとき、対策が十分でない時期に比べて対策が進んだ時期におけるAFBA量が有意ではないが、減少傾向を示した(p=0.061)。またシクロホスファミド代謝物はいずれの尿からも検出されなかったが、シクロホスファミドの未変化体についても、AFBAと同様に減少傾向を示した(p=0.061)。職場環境を改善することにより、医療従事者の抗がん剤曝露量を減少できることが強く示唆された。AFBAは、医療従事者の抗がん剤曝露状況を明らかにし、なおかつ職場環境を改善するためのツールとして有用であることが明らかになった。
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