研究概要 |
我が国では食生活欧米化と高齢化進行によって心血管疾患(CVD)や慢性心不全(CHF)による死亡が増加している。近年増加している高齢のCVD患者の特徴は予後増悪因子の重積や悪性新生物(MT)など非心血管疾患の合併である。しかしながら、これまでCVD患者に合併したMTに関する疫学的研究は皆無である。本研究では国内最大の心血管・慢性心不全コホート(第二次東北慢性心不全登録研究)を用いてCVD・CHF患者に合併するMTの特徴・予後やCVD治療薬によるMTへの影響を明らかにする目的で開始された。 本研究に登録された症例(N=10,219)の年齢は平均68歳、男性が70%であった。登録時にMTの既往を認めた症例は1178例(12%)で、MTのない症例と比較し、有意に高齢でやせ型の体型であり、血清アルブミンや中性脂肪・総コレステロールが低かった。左室駆出率やCVD治療薬の浸透率に差はなかったが、BNPがMTの既往例で有意に高かった。MTの既往例(平均72歳)で、これまでに調査しえた症例(N=375、32%)のMTの部位別罹患割合をみると、男性では胃(25%)、前立腺(15%)、結腸(14%)、肺(8%)、直腸(7%)の順に多く、女性では乳腺(26%)、子宮(14%)、胃(14%)、結腸(12%)、甲状腺(7%)の順に多かった。宮城県がん登録の平成16年集計と比較すると、本研究では男性は肺癌が少なく、女性では乳癌、子宮癌が多かった。本研究からMTの既往のあるCVD症例は、高齢で重症の傾向にあり、さらに低栄養状態であった。CVDでMTの既往例では特に慎重な栄養評価、介入が求められることを示唆する。現在の中間解析の段階でCVD患者のMTの詳細は未だ不明である。また、MTの状態や治療状況も十分に把握していない。MTの既往、CVD治療薬によるMTへの影響や予後について今後の調査で明らかにしていく。
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