研究概要 |
地域のソーシャル・キャピタル(SC)、即ち人々の結束や信頼を高めるような社会的ネットワーク資源を醸成することにより、高齢者の健康維持に必要な、多様な社会サボートの授受が円滑に行われることが期待される。しかし健康資源が、人的ネットワークを介してどのように伝達し、個人の健康へと影響していくかについては明らかになっていない。本研究は,数理社会学の「ネットワーク分析」手法を用いて、高齢者の社会的ネットワークのダイナミズムと健康との関連を理解すること,およびネットワーク分析手法の公衆衛生領域への応用のための課題整理を行うことを目的としている。初年度には山梨県早川町の全高齢者を対象に健康状態、社会経済状況、心理社会状況、生活習慣、および社会的ネットワーク等に関する郵送質問紙調査を行った。2年目は調査において,山梨県内で歴史的に継続実施されてきている無尽講(回転型貯蓄金融講)へ参加している人を対象に訪問調査を実施し,各無尽講のグループ内,およびグループ間の関係性データ構築した。また,無尽講の活動実態やほかの同地域内における社会活動の特性(特に人間関係の広がりと深さ)についての質的な聞き取りによる情報収集を行った。現在,収集されたデータを用いたネットワーク分析を実施中である。初年度に収集した横断データを,日本福祉大学がセンターとなって実施している日本老年学的評価研究における疫学研究データと合わせて分析し,地域のソーシャル・キャピタルが,個人の地域への信頼感評価等と独立して,個人のメンタルヘルス(抑うつ傾向)に対して抑制的に関与していること等を明らかにし,学会発表した.
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今後の研究の推進方策 |
残る1年の助成機関中に,数回早川町での訪問調査を実施し,ネットワーク分析用の個人間の関係性データの精度向上を行う。またネットワーク分析を実施し,ネットワークのダイナミズムを空間的・時間的に明らかにする。さらにネットワーク分析の結果を初年度疫学調査データと再突合し,ネットワーク特性と健康事象との関係性についての分析を実施する。分析結果は原著論文にまとめる。また学会発表を予定している。
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