小児や高齢者、また術後や経管栄養療法時の患者においては原因不特定の下痢症、抗生物質起因性下痢症、高浸透圧性下痢症等が誘発され、脱水や易感染状態、低栄養状態を惹起する。我々は、ヒトにおいて高浸透圧性下痢誘発をグアーガムやセルロースが抑制すること、また開発途上国の小児にフラクトオリゴ糖(FOS)を継続摂取させると下痢症状改善効果のあること等を明らかにし、難消化性糖質の経口摂取による下痢改善作用の要因を検討してきた。本研究の最終目的は、下痢抑制機序に関連する因子を、難消化性糖質摂取によって生じる腸内細菌叢の変化、ならびに有機酸や抗酸化作用を示す水素ガスなどの腸内細菌由来代謝産物の作用機序の側面から明らかにし、経管栄養剤等の改良・開発に寄与することである。まず本年度は基礎資料を得ることを目的とし、加齢に伴い下痢を誘発する老化促進モデルマウス(SAMP6)を難消化性多糖であるグルコマンナン(GM)および難消化性オリゴ糖であるFOS)含有飼料で飼育し、腸内細菌叢の変化ならびに抗酸化マーカー、炎症性サイトカイン、盲腸内容物有機酸等を測定した。一方、腸内細菌を抗生物質投与により減少させたラットをFOS含有飼料で飼育し、腸内細菌叢の変化を観察し、有機酸濃度等を測定した。また消化管組織切片を作成してFOS摂取による影響を観察した。その結果、SAMP6ではGMならびにFOSの継続摂取により腸内細菌数はコントロールに比較して増加傾向を示し、ビフィズス菌属や乳酸菌属が増加した。これに伴い有機酸生成量が増加したが、菌体有害酵素活性、炎症性サイトカインならびに抗酸化マーカーは低値を示した。一方、抗生物質による腸内細菌除菌ラットではFOS摂取によって消化管における炎症程度が低い傾向を示した。以上の結果に基づき、さらに基礎データを蓄積し、腸内細菌由来の代謝産物と下痢抑制に関連する因子を解析する予定である。
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