下痢は小児や経管栄養療法下の高齢者などで誘発する健康問題である。我々はヒトにおいて食物繊維や難消化性オリゴ糖に下痢誘発に対する抑制作用のあることを明らかにした。本研究の最終目的は、下痢抑制の機序にどのような要因があるかについて検討し、経管栄養剤の改良に寄与できるような基礎資料を検討することである。平成22年度および23年度に、促進老化に伴い下痢を誘発しやすいSAMP6系マウスを、フラクトオリゴ糖(FOS群)ならびにグルコマンナン(GM群)の難消化性糖質含有飼料で飼育した。その結果、FOS群ならびにGM群では腸内細菌叢が変化し、dROMおよびBAPなどの血液中酸化ストレスマーカー、8OHdGなどの尿中酸化ストレスマーカー、ならびに血液中炎症性サイトカインがコントロール群に比較して有意に低値であることを明らかにした。また、肝臓中の酸化ストレスマーカーも低値であることが明らかになった。本年度は、Wistar系成体雄性ラットを難消化性糖質(FOS)含有飼料で飼育し、血液中酸化ストレスマーカーなどの指標とラット体外へ排泄される水素ガス濃度を測定してコントロールのそれらと比較し、水素ガス排出との関連性を検討した。難消化性糖質を腸内細菌が利用すると、代謝産物として産生する水素ガスが腸ガスならびに呼気へ排出される。FOS含有飼料で飼育したラットでは、血液中酸化ストレスマーカーはコントロールに比較すると低値であり、一方ラット体外への水素ガスは有意に高値であった。ラット生体外への水素ガス排出は、摂取した難消化性糖質が腸内細菌に利用されたことを反映している。従って、これらの結果は、難消化性糖質の摂取によって観察された酸化ストレスおよび炎症性マーカーの減少は、腸内細菌叢の変化を介して生じていることを示唆しており、難消化性糖質の下痢誘発抑制においても腸内細菌叢の変化が関連しているものと考えられる。
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