研究概要 |
平成22年度の研究計画に従って、以下のような断面調査を行った。 ある化学工場の定期健康診断で血清クレアチニン値(Cr)を含む血液検査を受けた30、35および40歳以上の男性労働者1,023名の内、腎疾患既往と糖尿病および重症高血圧、さらに極端な肥満(BMI≧30)とやせ(BMI<18)の者を除いた990名について、喫煙習慣別のたんぱく尿出現率とGFR推定値(eGFR、CKD診療ガイド2009)を検討した。 その結果、Brinkman Indexの0、1-399、400-599、600-799、800以上の5群でのタンパク尿の出現率は1.5、2.6、4.8、7.2、4.6%で、多量喫煙者で有意に高かった(p=0.036)。一方、喫煙者のBMI、血圧、Crの平均値は非喫煙者に比し有意に低値で、eGFRは有意に高値であった。また、喫煙者ではeGFRが110ml/min/1.73m^2以上の正常域高値の頻度が非喫煙者に比べ2倍以上高い(5.4%vs2.5%)が、60ml/min/1.73m^2未満の中程度以上のGFR低下者の頻度に大きな差はない(2.7%vs3.3%)。BMと年齢を補正しても、喫煙者、非喫煙者ともにeGFRが低いほど尿たんぱく陽性の比率が高くなる傾向が見られた(p=0.099)。 以上から、一般健常者でも長期の喫煙はたんぱく尿の出現に関与すると結論できる。喫煙者での血圧低値とeGFR高値は、喫煙の血行動態への影響を示唆するが、今後、喫煙者のたんぱく尿出現にeGFRの上昇と低下がどのように関係するかを、縦断研究によって解明する予定である。
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