研究概要 |
平成23年度は縦断調査を実施した。石川県のある健康診断機関で2003年と2009年に血清クレアチニン濃度の測定を含む職場定期健康診断を受診した7,964人(男4,637人、女3,327人)の労働者の中、2003年時点で慢性腎疾患(CKD)の主症状であるタンパク尿あるいは糸球体濾過量(GFR)の低下(60 mL/min/1.73m2未満)を示した者と腎疾患既往者、重症高血圧者、糖尿病者を除いた6,998人(男4,121人、女2,877人)について、2009年までの喫煙習慣を非喫煙、喫煙継続、途中禁煙の3群に分けて、2009年でのCKD症状の出現頻度を比較した。その結果、6年間非喫煙であった者に対する喫煙継続者でのタンパク尿出現のオッズ比は、男女を問わず、年齢、飲酒量、血圧、血糖ほかの交絡因子を調整しても2.5で、非喫煙者に比し有意に高かった。途中禁煙者のオッズ比は1.25で、非喫煙者と有意差がなかった。一方、喫煙継続者での低GFRの出現オッズ比は0.7で、非喫煙者に比し有意に低かった。これらの結果から、一般労働者において、喫煙の継続はタンパク尿の発現頻度を2倍以上高くし、禁煙はその抑制に有効であることが明らかとなった。一方で、喫煙は低GFRの発現増加に関連しないか、むしろ抑制的であることが示された。これらの結果は平成22年度の横断調査での所見とも一致する。今回の6年間の観察ではGFRの経年変化に喫煙者と非喫煙者で差が見られなかったが、タンパク尿出現者では非出現者に比してGFRの低下が有意に大きいので、より長期な観察を行えば、タンパク尿が出現しやすい喫煙者での顕著なGFR低下を認める可能性があると考えられる。今後さらに長期間の観察を進めたい。
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