研究概要 |
本年度は,脳・心臓疾患のうち,非致死性の脳疾患(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)に絞って事例を集め,半構造化面接法によって,系統的に発症前の労働負荷要因と労働負担要因に分けて慢性過労状態を明らかにすることを目的とした。計画に従って,弁護士を通じて非致死の脳疾患事例を18例集めたものの,本人の同意を得られないため断念せざるをえない事例が多数を占めた。そこで計画では,ホワイトカラーの非致死過労死事例に限定していたが,グレーカラーおよびブルーカラーの事例にも範囲を広げた結果,現時点で3事例からの聴取を終えた。具体的には,脳出血2例,脳梗塞事1例であった。半構造化面接の結果,仮説通り,過労死前の慢性疲労状態を進展させる背景には,「怒り」,「悲しみ」,「悲嘆」などの情動反応の発現が示された。とりわけ強い「怒り」の反応が聴取された。情動反応が生じた期間は,発症前日から発症1か月前に及んだため,時系列の特徴を得ることができなかった。しかしながら,情動ストレスの解消過程であるレム睡眠が覚醒中にもBasic Rest Activity Cycleに同調して生じることを考慮すると,時系列的な発現の可能性が示唆された。そこでこの点を明らかにするために,平成23年度も例数を増やして過労死に及ぼす情動反応の影響を検討する予定としている。とりわけ,6月に行われた米国睡眠学会(サンアントニオ)ではカリフォルニア大学のGujarが,9月に行われた欧州睡眠学会(リスボン)においてはアムステルダム大学のTalaminiがレム睡眠と情動機構に関する発表をしており,この仮説の確度の高さを確信した。
|