研究概要 |
本研究の目的は脳・心臓疾患予防策に寄与するメカニズムを提案することであった。そのために,脳・心臓疾患の労災申請中で,かつ非致死であった労働者本人から,直接,彼らの労働条件,労働負担条件および生活条件を発症から過去6カ月にわたってレトロスペクティヴに聴取して,彼らの慢性過労-発症プロセスを時系列的に捉える方法を用いた。本年度は,昨年度に続き,脳・心臓疾患のうち,非致死性の脳疾患(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)に絞って事例を集め,半構造化面接法によって,系統的に発症前の労働負荷要因と労働負担要因に分けて慢性過労状態を明らかにすることであった。その際,慢性過労の背景には,睡眠短縮と睡眠-覚醒リズム変調,さらには不安感,焦燥感のような情動負担が関係していると考えられるため,それらを中心に検討した。また事例数を増やすために,ホワイトカラーに加えて,ブルーカラー労働者の聴取も行った。さらに過労障害のみならず,過労死事例のうち,認定基準外の労働者の事例も検討した。その結果,ホワイトカラー労働者では,教師(脳出血),医師(脳出血),ブルーカラーでは夜勤を伴う工場労働者(脳出血),大型トレーラー運転手(脳出血)の家族および被災者本人の面接を終え,事例を増やした。認定基準外の事例では,1週間(トラック運転手)および3か月(ビデオ店店員)の休養期間後に過労死した事例を扱った。これらの事例に共通していたことは,過労障害発症前に(1)恒常的な長時間労働があったこと,(2)なんらかの情動負担の亢進があったこと,(3)生体および生活リズム変調障害があったことであった。睡眠時間は継続的に短縮を示した事例よりも(つまり,平均睡眠時間が短い事例よりも),むしろ就寝および起床時刻に不規則性がある事例が目立った(つまりこれらの分散が大きかったこと)。
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今後の研究の推進方策 |
面接調査の知見の科学的な裏付けを得るために米国睡眠学会に出席して情報を得る。本研究課題は,疲労研究,循環器研究,睡眠研究,労働法研究にまたがる研究であるため,多方面の科学的知見を収集して進める必要がある。現在のところ,疲労研究,睡眠研究における情報収集は満たされているが,他の分野については,十分でない。紹介弁護士,意見書作成医師との情報交換を通して,これらの溝を埋めていきたい。
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