研究概要 |
ノンコーディングRNAであるmicroRNA(miRNA)は,約20塩基長の非常に短い一本鎖RNAであるが,遺伝子発現を制御する機能を持ち,高次生命現象や病態への関与が注目されている。このmiRNAは他のコーディングRNAに比較してRNaseに対し安定であると言われていることから,死因究明のための病態解析,または死後経過時間の推定等,法医学的に有用なバイオマーカーとなる可能性を持つ.最終的な目的は質量分析により,直接miRNAの種類・量を網羅的に観察し,法医学的に応用するものである.しかし,死後のmiRNAに関する報告は皆無なため,今年度はその基礎的実験として,ラットを用いた実験で,死後miRNA残量の経時的変化の確認を行った.すなわち,胸腺・心臓・肝臓・腎臓・脾臓・膵臓の各臓器において既に強発現が報告されている6種のmiRNAマーカー,let-7a,miR-16,miR-26a,miR-1,let-7b,miR-122の6種を選択し,内部標準としてsnoRNAおよびU6 snRNAを用いてTaqMan法により観察した.その結果,臓器別に見ると,いずれの死後経過時間群試料においても,心臓ではmiR-1の発現量が他のmiRNAに比して数十倍~千倍の高い値を示し,また肝臓ではmiR-122の発現量が際立っていた.これら臓器特異的発現は生体における既報と同様な結果であり,死後も観察されたことから,他のmiRNAマーカーについても法医学的な病態解析のためのバイオマーカーとして利用可能なことが示唆された.また,他の胸腺,脾臓,腎臓,肺ではいずれもmiR-16が一様に高い発現量を示し,これは死後経過時間の評価マーカーとなり得る.このように死後もmiRNAが残存することが証明され,今後の研究に対する基礎的情報が得られた.
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