研究概要 |
ノンコーディングRNAであるmicroRNA(miRNA)は,約20塩基長の非常に短い一本鎖RNAであるが,遺伝子発現を制御する機能を持ち,高次生命現象や病態への関与が注目されている.このmiRNAは他のコーディングRNAに比較してRNaseに対し安定であると言われていることから,死因究明のための病態解析,または死後経過時間の推定等,法医学的に有用なバイオマーカーとなる可能性を持つ.最終的な目的は質量分析により,直接miRNAの種類・量を網羅的に観察し,法医学的に応用するものである。しかし,死後のmiRNAに関する報告がほとんどないことから,今年度は基礎的実験として,ラットを用いてマイクロアレイによる350種の死後miRNAの網羅的解析を行った.その結果,非階層的クラスタリングであるK-Means法を用いて、350種のmiRNAを経時的にかつ網羅的に検索したところ,約8割を占める278種は,死後24時時間以降,検出限界以下のものであった.また,他のmiRNAのうち45種は24~72時間まで良好に保存されており,死因と病態の関連を判断するにはこれらの中からがマーカーを選択することになる.さらに,8種のmiRNAは死後24時間までは保存されているが,48時間以降は検出できなくなるものであり,これらは死後経過時間の推定には利用可能であると思われた.残りの19種は24~48時間でその量を増やし,そのまま72時間まで量を維持しているマーカー群である.これらに関してはリアルタイムPCRでの精査が必要であると思われた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果として,ラットを用いた動物実験により死後もある程度のmiRNAが残存していることが確認された.また,心臓,肝臓などの臓器別,またはクラスター分析による死後経過時間別にそれぞれ特徴あるmiRNAが確認されてあり,新たなバイオマーカーとしての可能性が示された.
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今後の研究の推進方策 |
当初は質量分析装置を用いた網羅的解析を目的としていたが,多種多様なRNAを同時に解析するは困難であることが判明した.これは,試料の前処理が煩雑になること,RNA測定のための機器の条件設定が複雑になるうえ,測定結果の精度が低いことが原因によるものである.そこで今後は,まず,病態解析のためにバイオマーカーとなるmiRNAを確定し,その後特定のmiRNAを液体クロマトグフ質量分析装置を用いて,迅速かつ正確な解析を行うことを目的とする.
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