プロテオミクスの手法を用いた覚せい剤・アルコール等の薬物による細胞死誘導機構の解析を行った。ヒト神経芽腫由来細胞に覚せい剤メタンフェタミンを暴露したところ、分子量約65kDaのタンパク質の顕著な増加を認めた。質量分析計により解析したところ細胞外の培地の血清成分であるアルブミンの流入であることがわかった。このことから、覚せい剤暴露により細胞外液の取り込み経路の一つであるマクロピノサイトーシスが異常に亢進していることが判明した。更に、塩基性薬物である覚せい剤がリソソームに蓄積することでリソソームの機能障害が起こり、それに伴うオートファジーの不全など様々な障害が引き起こされることを明らかにした。コカインをラット心筋由来細胞に暴露したところ分子量約230kDaのタンパク質の顕著な誘導を認めた。これはミオシン重鎖の一つMyosin-9であることが判明し、心不全時のミオシン重鎖の発現誘導と類似の現象と考えられた。また、細胞内毒素(LPS)による敗血症モデル実験において、ミトコンドリア局在タンパク質CPS-1の顕著な低下をプロテオミクスにより発見した。これは障害を受けたミトコンドリアのオートファジーによる除去を反映していることがわかった。以上のいずれの実験においても、全タンパク質を電気泳動することで薬毒物刺激により顕著な発現変動を示すタンパク質が認めることが出来、そのタンパク質を質量分析計により同定することで障害機構を解明することが出来、プロテオミクスの有用性を実証することができた。
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