酸化ストレスが糖尿病や虚血性心疾患、急性薬物中毒、ショックなど種々の病態に関与していることが明らかになってきた。しかし、法医剖検試料を対象とした酸化ストレスの評価法は未だ確立されていない。本研究の目的は、過酸化脂質およびオキシステロールが法医実務に応用可能な酸化ストレスのバイオマーカーとなる可能性を検証することである。(1)脂質酸化物の分析法の改良:我々の従前の方法では過酸化脂質はpgレベル、オキシステロールはngレベルの定量分析が可能であるが、法医剖検試料に応用した場合、必ずしも感度が十分でない。そこで、本年度は、オキシステロールのより高感度かつ高精度な分析法の確立をめざし、試料の前処理法の改良によるHPLC-UV分析、LC-MSによる分析を試みた。その結果、限外濾過による試料精製および固相抽出法の変更、移動相の改良によってHPLC-UV法での分離度と感度の向上が得られたが、LC-MSではイオン化が不良であった。総じてこれらの改良法はヒト剖検試料(血液、大動脈、心筋、肝臓)中の脂質酸化物定量には十分ではなかった。LC-MSおよびLC-MS/MSでの分析法を検討中である。(2)酸化ストレスの免疫組織学的検討:粥状硬化症(大動脈)および虚血性心疾患(心筋)、アルコール性肝障害(肝臓)を対象に7-ketocholesterolならびにヘキサノイルリジンの免疫染色を行った。粥状硬化の進行した大動脈では7-ketocholesterol、ヘキサノイルリジンともに内膜下で染色性が増加した。死後経過時間が染色性に大きく影響した。現在、死後24時間以内に採取した試料に限定して染色性の差違、局在を検討中である。
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