現在、日本では過労死は大きな社会問題となっている。過労死においては過労死の労災認定請求件数に比して過労死と認められた件数(支給決定件数)は非常に少ない。これは過労死における科学的な診断基準が確立されていないためである。過労死では生体に長期ストレス負荷がかかっていると考えられるが、長期ストレスの法医学的証明法は確立されていない。また、法医実務で経験する成人の虐待例において、剖検所見から決定的な「長期間のストレス持続」を証明する特異的な診断マーカーは全く知られていない。従って、長期に亘るストレス暴露に対する生体の反応を捉える新しい診断マーカーの同定が重要である。ラット下垂体線種細胞MtT/S細胞にコルチコステロンを添加しMtT/S細胞の経時的な遺伝子発現状態をMicroArray法にて検討したところ、培養後24時間以降にSyntaxin 11(Stx11)、Somatostatin receptor 4(SStr4)、Cystic fibrosis transmembrane conducting regular homolog(Cftr)、Ras onocogene family 3a(Rab3a)、activating transcription factor 2 (Atf2)、cAMP responsive element binding protein 3-like 1 (Creb3l1)、cAMP responsive element binding protein 3-like-2 (Creb3l2)に有意な増減が認められた。特に、Stx11、SStr4では200倍以上mRNAが増加していた。さらに、我々が開発したマウス長期ストレスモデルにおいて、下垂体のStx11、SStr4 mRNAは長期ストレスにて有意に増加していた。
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