研究課題
われわれは身体的虐待によって好中球が各臓器内に浸潤することを平成22年度は高齢者虐待死剖検例,平成23年度は小児虐待死剖検例を対象として,好中球の表面マーカーmyeloperoxidase,接着因子P-selectin,遊走因子interleukin-8を指標とした免疫組織化学によって証明し,高齢者・小児に対する身体的虐待の法医学的証明法として有用であることを示唆してきた。また,小児虐待死例では好中球が産生する組織障害因子の一つである好中球エラスターゼ(neutrophil elastase; NE)の発現も増加することから,被虐待児では好中球による各臓器の組織障害が既に起こっている可能性も示唆した。NEによる組織障害は,好中球が産生する活性酸素によってNEの内因性阻害因子α1-antitrypsin(α1-AT)が酸素化され,阻害因子としての機能が破綻することで生じることが知られている。そこで,平成24年度は小児虐待死例13例についてα1-AT,酸化型α1-ATを指標として,各臓器(心,肺,肝,腎)内の各陽性数を数え,小児対照例と比較したところ,これまでの検討で好中球浸潤が特に高度にみられた肺,肝においてα1-AT陽性数が有意に減少し,酸化型α1-AT陽性数が有意に増加していた。これらの結果について,癌や重度熱傷などの種々の原因に基づく多臓器不全による死亡6例とも比較したところ,多臓器不全例ではさらにα1-AT陽性数が減少し,酸化型α1-AT陽性数が増加していた。したがって,身体的虐待によって小児の特に肺と肝において多臓器不全ほど高度ではないものの好中球による組織障害が実際に生じていることが証明された。被虐待児は多臓器不全の前段階ともいうべき状態にあり,虐待が続くなどの傷害や感染などの様々な障害が加われば比較的容易に多臓器不全に陥る危険性があることがさらに強く示唆された。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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