緊縛性ショックはクラッシュ症候群のモデルと考えられているが、ショック発症機序は未だ不明である。そこでマウス両大腿を緊縛し、虚血とその後の再還流による諸臓器への影響を遺伝子とタンパク発現変化の観点から検討した。C57BI/6J雄マウス各8匹を対照群・緊縛群とし、ペントバルビタール腹腔内投与麻酔下に緊縛群は両大腿を3時間緊縛・再還流3時間後、対照群は6時間の麻酔後にヒラメ筋・肝・腎・肺を摘出した。ヒラメ筋組織のDNAマイクロアレイ分析の結果として、対照群と比較し緊縛群でシグナル強度が2倍以上に上昇した遺伝子の中からHspa1b、Ptgs2、c-Fosを、シグナル強度が1/2以下に低下した遺伝子の中から抗アポトーシス因子であるBcl-2を選択し、諸臓器の遺伝子発現変化をリアルタイムPCRを用いて検証した。その結果、筋ではマイクロアレイの結果を裏付け、腎ではc-FosおよびPtgs2の有意な発現上昇が確認できた。肝と肺では有意な変化を認めなかった。c-Fosは前初期遺伝子の一つであり種々の刺激に対し早期に発現が上昇するという特徴があり下肢筋組織および腎では合致していた。Ptgs2は腎血流量増加作用があり、腎血流量の低下を反映して上昇した可能性がある。また、パラホルムアルデヒド固定パラフィン包埋組織切片について抗Hspa1b、Ptgs2、c-Fos、Bcl-2抗体を用いてDAB法にて免疫染色を行ったところ、筋組織および肺でいずれのタンパクも緊縛群と対照群で差を認めなかった。肝ではいずれのタンパクも対照群では主に肝細胞質が染色されたが、緊縛群では核が染色される傾向にあった。腎も同様に対照群では尿細管の細胞質が染色されたが、緊縛群では尿細管細胞の核にも染色がみられた。以上のことから、腎での遺伝子発現変化やタンパク局在変化、肝でのタンパクの局在変化から、下肢の虚血・再還流の影響が腎・肝においては早期から現れることが示唆された。
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